(インタビュアー 土居伸彰) ○それぞれの作品について ——まず、守らなければならないルール、規則みたいなものは、テーマの「東京」というのと、時間(一人4〜5分)だったとお聞きしていますが、「東京」というテーマについて、どう考えましたか。 和田淳 僕はまず、東京生まれでもなく、東京育ちでもなく、一年ちょっと住んでいただけなので、あまり思い入れというものが無かったんです。なので、まぁそんなに深く受け止めるということはやめようと、お話をいただいた時から考えていました。そしてその住んでいた一年と少しで受けた東京というものに対する印象からイメージして作りだしました。 ——大山さんは、ずっと東京に住んでおられますよね。 大山 ええ。なので、自分自身を描けば自然に東京を描くことになるだろうくらいに割り切って考えました。僕が何を描こうが同時に東京を描いてしまうことになるだろうと。 ——結果的に一番「東京」らしい作品になっていたと思うのですが。 大山 例えば、東京タワーだとか新宿駅だとかそういう記号的なものを使ってここは東京ですよと説明してしまうのは違うのかなと思いました。(他の作家さんの作品にそういうものが登場していますが、それらを批判したコメントではありませんよ!) そういうものによってではなく、東京をきちんと感じさせるものにはなっているのかなあとは思います。 ——和田さんの作品も記号としての東京というものを使わず作っておられますが、やはり東京らしい感触があります。そのことについて考えてみますと、今作に関わらず、和田さんの作品には集団が描かれ、その集団の中の一人を取り上げていることが多いように思います。例えば『kiro no hito』や『やさしい笛、鳥、石』、『鼻の日』などがそういった作品の例として挙げられます。今回、「東京」というテーマが課されることで、和田さんの集団と個人というそういったテーマがグッと引き出され、凝縮された形で表現されていると思われるのですが。 和田 確かに僕の作品にはサラリーマンやおばあちゃんなどの同じような背格好した人たちがいっぱい出てきて、その中の一人を描くことが多いです。ただそれが社会批判だったり風刺、皮肉だったりするということはないです。むしろ、「いっぱいいる人たちのそれぞれがそれぞれの思想や感情を持ち、想像や妄想を膨らまして生きているんやなぁ」という、集団として見ると、埋もれてしまいそうな個人の癖や歪んだ考え、想像力などを描きたいがために、集団を描いているという感じです。
和田 やっぱり正直東京に来て感じたんですが、周り見渡したら、まいってる人多いと思いますよ。独り言しゃべってる人いっぱいいますもん。そういうのを見て、あぁまいってるなぁと思うと同時に、何か面白いなぁとも思うんです。僕は基本的には面白いものを作りたいんです。それは魅力的な、という意味もあるし、単純に面白いという意味でもあります。ただ笑いと悲しみ、怒り、恐怖は紙一重なところもあると思うので、そこらへんを表現したい。だから先程、集団の中の一人を皮肉や風刺では描いていないと言いましたが、だからといってすこぶるポジティブでもないわけです。 あと、土居君が声が人の形をしていると言っていましたが、あれは決して人ではないんです。何というわけではないですが、名付けるなら妖精とか精霊とかあっちの方です。だって浮いてたでしょ。今回は東京は独り言しゃべっている人が多いから、その声を視覚化してみようってとこからまず始まったんです。だから別に人でも動物で仏さんでもよかったんです。出来上がったら、何かウエスタンな感じの妖精になりましたが。
大山 少女に関してですか? ——そうですね、少女の死です。 大山 もともと『Tokyo Loop』のお話をいただいたときに、ミミズの部分は途中まで作ってあったんですよ。『Tokyo Loop』に関係なく。まったく関係なく。まあ、TVサイズで作っていたので結局フィルム用に全部作り直さなければならなかったのですが。それで、そのミミズを作っている段階ではそのあとの展開というものは一切考えず、とにかく作っていたんですね。『Tokyo Loop』のお話が来たときに、それじゃあ、これを5分間の短編として仕上げようと思ったわけです。 正直なところ、お話をいただいたときのメンバーをみて、「普通の物語」っていう感じのものがおそらく少ないだろうなと思ったので、シンプルでわかりやすいストーリーにしてみようかなと思ったっていう計算のようなものはゼロではありませんでした。で、ミミズで始まって、シンプルなストーリーで5分のサイレントで仕上げなければならないっていう条件がそろったときに、自然とあの少女の顔が浮かんだんです。あの少女の死というのは、実は自分の体験としてあって、映画に出てきたような小学生の頃の体験というわけではないのですが、実際にあれにかなり近い体験を大人になってからしていまして、それが不思議とすごくつながったんですね、ミミズをつついていた少年の頃の自分と。当時はなぜだか、涙も出なかったんですよ。とても可愛らしい、自分にもなついてくれていた女の子が死んでしまって、これ以上にないくらい悲しいはずなのに涙も出ずに、今まで感じたことのない不思議な心境になって。それと、ミミズをつついていた少年の頃の経験が、なぜだか時空を超えて(笑)結びついたんですよねえ。それで、映画のなかではミミズをつついていた少年が、実は死んでしまった少女の家を訪問する直前だったっていうようにつなぎました。 ——結果的に前半と後半のコントラストがはっきりすることになったと思いますが、それは自然にそうなったという感じですか。 大山 そうですね。そのシナリオが出来てから、「生きているもの」、「死んでいるもの」、「死とは何だ」という自分の抱いている死への恐怖、「死というものがわからない」っていうことがテーマなのかなと確信をもってきたので、それを強調するための絵作りをしたり、「蚊を出してみよう」と考えたりしました。
——音楽についてお聞きします。山本精一さんが音楽を担当されていますが、もう完全に任せるといった感じなのでしょうか。 和田 僕の場合は直接山本さんとお会いして話し合うことができなかったので、イメージフォーラムの方に、「僕の以前の作品(『鼻の日』)のような雰囲気で、色合いはそれよりちょっと暗めで」というようなことを伝えました。それでたぶん山本さんに『鼻の日』を観てもらって、そこからイメージして音を作られたんじゃないかなと思います。なので、吐息だったり何かごにょごにょ言ったり、まるで僕が録音したかのような仕上がりになったんじゃないかなと思いま す。 ——じゃあ音が映像にのっているのを観たのは試写会が初めてですか? 和田 はい、そうです。「一体どうなるんだろう」って感じでしたが、僕は音がのっているのを観て「あぁ流石やなぁ、合ってるなぁ」って思いました。 ——大山さんはどうですか。 大山 「悲しい」だとか「楽しい」だとか、聞いている人間の感情を揺さぶるようなものは極力避けてほしいという希望だけ伝えてあとはお任せしました。 ——結果、メロディーもなくノイズだけというものでしたね。 大山 そうですね。よく合っていると思います。ただ、あの作品に関してはサイレント映画だと思って僕は作ったので、自分の中でベストな状態っていうのはまったく音のない状態です。山本さんにつけていただいた音楽が嫌だとか気に入らないという意味ではまったくなくて、もう、そのつもりで作ってしまったので、だれがどんな音楽をつけようが、うん、やっぱりどこかでサイレント映画だという意識はありますね。 ○『Tokyo Loop』体験 ——お二人にお聞きします。『Tokyo Loop』全体を見渡してどうでしたか。 和田 まず、「こういうメンバーでやります」って話を聞いた時に、その中で僕は最年少だったのですが、今の自分、「和田淳」という人がこのメンバーの中に入れること自体どう考えても奇跡的なことで、そのことがものすごく嬉しかったですし、光栄に思いました。 ——聞くところによると、同じく参加されている久里洋二さんに「天才を見つけた」みたいなことを言われたそうで。 和田 久里さんとは試写会の時初めてお話させてもらって、そういうことを言ってもらい嬉しかったんですが、次お会いした時は忘れていたようなので(一同笑)、なかなか迂闊に喜べないというか。でも試写を観た直後にそのことを言われたっていうのは確かなので、大事に胸にしまっておきます。 ——大山さんは全体をみてどうでしたか? 大山 うーんどうなんでしょーかねー。どの作家さんも皆さん素晴らしい作家さんばかりで、本当にもうプレッシャーも大きかったですね。皆さんそれぞれに作品の魅力もまったく全然違っていて、もう二度とこのメンバーでのオムニバスっていうのはありえないと思うし。こういうものがたくさん作られればいいなあと思いますね。 和田 試写会のときメチャメチャ緊張してましたもんね。二人で。 大山 したねー。 和田 大山さん、見終わった後何か聞かれてましたね。(イメージフォーラムの)社長さんに。 ——何を聞かれたんですか。 和田 順番的な・・・ ——ランキングですか! 一位は? 大山 僕ねえ、一番面白いと思ったの和田君のなんですよねえ。今までの良さを保ちつつ、テクニックが大幅に成長していて凄かったです。ちょっとビックリしました。 ——そんな風に言われてますが、和田さんの一位は…… 和田 僕、順位とかつけないんですよ。自分が精一杯やって、誠実に出来たらそれでいいんで、順位って言う発想がなかったですね。 大山 (笑) ——(笑)。大山さんはご自身の順位は何位だったんですか。 大山 下から数えた方が早いですねー。だからすごく落ち込みましたし……でも僕、本当は順位とかつけないんですよ。やっぱり自分のためにできたらそれで……なんだっけ質問は。 ——順位です。 和田 5位でしょ。 大山 (笑) ——ランキングの話はもうやめておきましょうか。今回のような上映ですと、普段とは違う観客が来るわけですけれども、そのあたりは意識されましたか。 大山 僕一人が上映会開いたって集まるわけないような人数の観客が集まるし、普段あんまりアニメーションを観ないような観客が観てくれる可能性も大きいんで、単純に嬉しかったですね。いろんな人に自分の存在を知ってもらえるチャンスなので。 ——何か新鮮な反応などはありましたか。 大山 ないです。 —— ……。 和田 そういった意味では、順番は関係ないってさっき言いましたけど、いろいろなお客さんに見てもらえるという意味ではやっぱりオムニバスの意義はあると思いますね。 ――何か広がりのようなものはありましたか。 和田 ないです。 —— ……。どうやって締めればいいんだろう……。じゃあ、このホームページを見ている人に何かメッセージを…… 大山 誰が見てるんですかねえ……どういう人なんだろうなあ。今はもう、アニメーション界全体のことだとか、盛り上がりのことだとか、正しいアニメーションについてだとかよりも、もう、自分の作品が仕上がってなくて、それで精一杯なんで…… ——特に言うことはないと。 大山 僕は詩人ではないので、やはり言葉ではなくて作品で、伝えていきたい。 ——(笑)。和田さんは…… 和田 僕の作品を観ていただければわかると思うのですけれども、まあ、仕事にはならない……でもそれをアニメーションズを通して少しずつ変えていけたらなと思います。>2 |
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Tokyo Loop インタビュー1 大山慶・和田淳 <1 2>
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