『 ッグ』の衝撃

スージー・テンプルトン『ドッグ』(2001)
大山
僕は『ドッグ』はすごく好きです。人形っていう感じがあんまりしなかったのはどういう理由なんだろう、というのはすごく思ったんですけど。
山村
あの動きでしょ。人形アニメーションで革新的だと思った。それまでの、あくまで人形としての存在でしかなかった人形アニメーションが、精神を持っているようなリアルさを得た。そこで魅せるっていうのが新しい。クエイみたいにオブジェとして見せるのではなく。実写の演技から感じるようなものを、人形の魂が感じさせるっていう。テクニックですよね。目の光のちょっとした動きをコントロールできるテクニックはびっくり。
大山
あの中の犬にはあまりそれを感じなかったですけどね(笑)。
山村
『ドッグ』っていうタイトルのくせに犬の出来が悪いよね。少年だけなんだよね、すごくいいのは。父親も惜しい感じがする。
大山
だから犬が殺されてもあんまりかわいそうな気がしないんですよね(笑)。キャラクターっぽいデザインになっちゃってるから。
グェン
『ドッグ』は表現もそうですが、話の内容もすごいですね。闇の部分が。お父さんは「ドアから出られない」と言っているわけですよね。作品は少年の観点から、お父さんがおかあさんまでも殺したのかと思ってしまうんですよね。
山村
それははっきりとは描いてないよね。演出力がある。
土居
作品に直接描かれない、無限の広がりを感じさせる作品ですよね。
山村
細かい効果音の付け方だとか、声のつぶやきだとか、少年が壁をさする演出だとか、そういうディティールがうまい。すごく魅せるかたちで付けられてるよね。……なのにね(笑)。
土居
次("Peter and the Wolf")のは。
山村
次のはなんであんなふうに……なんなんだろうなあ……
土居
『ドッグ』も一つだけ気に入らないところがあって、クレジットの文字が……
山村
あれはちょっとね。
土居
いかにも「学生さん」って感じで、「あれっ?」と。
山村
そこらへんはあんまりこだわりのない人なのかもしれないね。
グェン
家族でつくってるんですよね。
土居
「テンプルトン」って名前がいっぱいクレジットに出てますね。
グェン
あれも気になってくるんですよね。周りの協力がどう協力したのか。
山村
パペット制作はスージーさん一人になってました。
土居
新作は資本がめちゃくちゃたくさん入ってきちゃって、外からの力ってのがたくさんかかったのかもしれない。ペトロフの座談会でもそんな話になりましたけど。
山村
『ドッグ』はプライベートにつくれたから、感性がすごく出せたのかなという気がする。
形アニメーションにはデザイン性が重要である
グェン
人形というテーマなので、大きい問題として出てくるのは、動かし方。関節型の物が主流になって来てるんだけど、ノルシュテインのような作り方とか、切り紙だと、関節を動かすのではなくて全部……
山村
置き換えてますよね。
グェン
はい。コマごとに作るというのは本来なら原始的なものなのですが、人形だと形式的に見えてしまう。
山村
そうだよね。いくら膨大な数を置き換えてるとはいえ、空間の中での自由度が限られてる感じがしちゃう。
グェン
逆にむしろ、様式の極端な追求として出てくるのが『パニック・イン・ザ・ヴィレッジ』ですね「これでいいんだ」っていいうような。
山村
そう。細かいことは全く気にしない(笑)。
グェン
おもちゃですっていう事を前提でやっていて、それをうまく工夫してるんだよね。あれも原始的って言われればそうなんだけど(笑)。
山村
全く原始的で。逆に工夫はしない(笑)。その潔さが凄く好き。駒撮りで神経を費やさなくても十分なんじゃないか。どっちにしても人形という約束事で見てるんだから。『パニック・イン・ザ・ヴィレッジ』程度の人形でも、観る側はキャラクターとしての思い入れをしてしまうということ。あとは、『ミトン』もそうなんだけど、デザイン性がすごく優先されてる気がする。だから、画面としてのデザインが成り立ってるので人形がどう動くかというのはあまり影響しない。『ミトン』も動きっていう部分では、特別なものは感じない。
土居
ノルシュテインが、カチャーノフをすごく褒めてます。「他の人形アニメーションは実写映画の法則に従っているのに、カチャーノフだけはきちんと人形アニメーションなりの新しい動かし方の法則をつくりだしている」って。どういうところがそうなのかなというのは、僕はあまりピンと来ないので皆さんに聞こうと思ったんですけど、山村さんも特に何も感じないわけですね。
山村
動きっていう部分ではそんなに新しいとは感じないですね。それこそ、『パニック・イン・ザ・ヴィレッジ』のほうが新しいと言えば新しいんだけど(笑)。
土居
あまり作り込まないものの方が印象には残りますよね。
山村
どっちかだと思うんですけどね。もの凄く作り込んであったり、テクニックが凄いものの方が印象に残るっていうのもあるんじゃないですかね。どうでしょう。

ロマン・カチャーノフ『ミトン』(1967)
DVD ジェネオンエンタテインメントから発売中(税込3,129円)
グェン
カチャーノフの『ミトン』に関して感心するのは、布の犬の演技が本物らしいこと。子犬としての演技がきちんとできている。黒い子犬と赤い犬では、赤い犬の方がむしろ生き生きしている。そういう違いがうまく作品の中で機能してるんですよね。
土居
『ミトン』では、「毛糸がほつれてしまう」っていうのが描かれてるのが凄くよくて。女の子の空想なんだよ、毛糸の手袋なんだよ、っていう次元がしっかり表現できている。
グェン
妄想だからレースにも勝てないわけじゃないですか。ストーリー上も途中で、そういう風になる。
土居
『ミトン』は僕にとって、「人形アニメーションとはどういうものなのか」というのを考えるモデルケースみたいな作品なんです。静止した「モノ」としての次元と、それが「動いて見える」っていう次元の行ったり来たりがある。一般的な人形アニメーションは、『ミトン』の喩えで言えば、女の子の空想のレベルだけで成り立っているじゃないですか。それだけにたまにものすごく狭い世界にも感じてしまいます。そこは良いところでも悪いところでもあるのですけれども。
山村
コ・ホードマンさんの『ルドウィック』の一本目も、まさに、「人形が人形の世話をする」っていう話。『ミトン』に通じるものがあるかな。コ・ホードマンさんも、あくまで立体物としてある存在を、アニメーションにしか出来ない動きでやってる人だと思うので、それも今日見れば良かったかな……
2007年11月24日 山村浩二自宅にて
今回取り上げた作品についての補足情報
○"Madame Tutli-Putli"(2007、Chris Lavis & Maciek Szczerbowski)
公式サイト(予告編あり)
○スタレヴィッチ諸作品
公式サイト(仏、英語)
DVD「Le Roman de Renard」
○ジョージ・パル諸作品
ジョージ・パルの『Puppetoon Movie』[Amazon]
○『スクリーン・プレイ』(1994、バリー・パーヴス)
DVD「世界のベスト・アニメーション vol.2 スクリーン・プレイ」に収録。
○『ドッグ』(2001、スージー・テンプルトン)
「The Best of RESFEST Shorts Vol.2」[Amazon]に収録。
○「パニック・イン・ザ・ヴィレッジ」(2000-, ヴァンサン・パタール&ステファン・オビエ)
公式サイト(ムービーあり)
「パニック・イン・ザ・ヴィレッジ」DVD-BOX [Amazon]
○『善良な兵士シュヴェイク3:堂々めぐりの巻』(1954、イジー・トルンカ)
「イジー・トルンカの世界vol.1」 [Amazon]に収録
○『ミトン』(1967、ロマン・カチャーノフ)
「ミトン」 [Amazon]に収録。
ひとこと後記
今回はものすごく大雑把に、そして偏見的に人形アニメーションを俯瞰する試みをしてみましたが、メンバー全員まったく勉強不足の感は拭えず、盛り上がりにもちょっと欠けました。今後また別の視点で人形アニメーションについてはアプローチしてみたいです。(山村浩二)
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