ルンは笑えるか? 山村 『トライアングル』もまだ語っていないけど面白いよね。 大山 『トライアングル』が一番面白さがわかりやすいような気がする。 グェン 愉快な怖さですね。 山村 笑いをとろうとするところも多いし。わかりやすい諷刺なんだけど……最高傑作だよね、男女の関係を描いたなかで。久里さんなんかもすごいけど、これは別格。 グェン こっち(『ホテルE』)は絶望的ですよね。 山村 社会システムの諷刺に行っていて……笑えないよね、『ホテルE』は。 土居 僕、『トライアングル』も結構笑えないです(一同笑)。 山村 あ、そう(笑)? 土居 これ観ると、(ミカエラ・)パヴラートヴァの『永遠に……』(1998)を思い出したりするんですけど。あの作品とセットになって、「ああ、愛情って続かないんだなあ……」って(一同笑)。呼びかけるときに、いつも映画スターの顔だったり、広告写真のイメージだったり、自分でいることができないという。 山村 二人でいるとね。 土居 呼びかけていること自体が、自分のところにいないから呼びかけるのであって……そういう絶望的な断絶感がすごい怖いですね。 山村 これが笑えるというか怖いというかはそれぞれだね(笑)。 グェン でもそれは個人的なレベルの問題であって。 山村 そうだよ。 土居 そんなことないですよ!みんなそうですよ! グェン それぞれ個人として乗り越えないといけないことでしょ(笑)? 土居 乗り越えられるようなことなんですかね? グェン 個人のレベルの、認識の問題でしょ? 愛情が続かないとかそういうことであったなら。みんなそれぞれ、ある意味で対面しないといけないことであって。社会の問題は、より深刻で。 土居 社会の問題だからより深刻というふうにはならないんじゃないですかね。同じように深刻じゃないですかね。普通に暮らしていて、わかりあえないことも深刻じゃないですかね。ときおり社会のどうにもならなさにも思いを馳せることがある、というような。それぞれの瞬間のことであって、優劣はつけられないと僕は思いますね。どちらも同じように深刻な問題を扱っているなと僕は思います。 大山 そうか…… 山村 まあ、深刻といえば深刻だけど、イランさんの言ったことの補足になるかわからないけど、でも男女の問題は個人レベルに還元できて、個人のなかで解決できるものでもあるのかなという気はするので、そういう意味では、笑ってみられる人は笑ってみられるんじゃないかな。 土居 でも、解決できるというのも、解決できたことにしよう、と思うからできるというだけの話であって…… 山村 解決とかそういう問題ではないのであって、どこの位置で笑うかっていうのは個人差がある気がする。『ホテルE』になるともう逃げ場がないという感じ。『トライアングル』だと、立場はかなりいろいろとみれるんじゃないかな。 土居 でも『ホテルE』のなかでも、個人のレベルでは社会なんてどうでもいいと…… 山村 もちろんね。逆にいえば、多くの人はそれを深刻に受けとめないだろうしね。たぶんそこまで理解しようとして観ている人は少ないと思うけど。 土居 すいません、思わず……(一同笑)ほんとに笑えないなと思ってしまって。……『おとぎ話』も笑えないんですよね。 山村 なんで(笑)? 土居 これ、多分僕の友達は笑えない人が多いんですよ。研究者っていろんなことに気が向きすぎて注意が散漫になってしまう人が多いので。そわそわしちゃって、これやんなきゃ、これやんなきゃ、みたいな。ブラウザのタブが20個くらいいつも並んでいたりだとか。僕もそうなんですけど。そんなことしているうちに、何していいかわからなくなって、内面世界に……みたいな。わけわかんなくなっちゃって、現実逃避する。 山村 あの話にそういうのをだぶらせちゃうんだ。 中田 どの話をだぶらせているのかもわからないのですけど(笑)。 土居 結局ちゃんとした生活が送れない、みたいな。 山村 『おとぎ話』はそうなのかな。僕は日常生活で慌ただしく追われているなかで、楽しく空想で遊びましょ、っていう(一同笑)。現実逃避とかそこまでではなくて。 土居 そうですか……僕は全然笑えないんですよ……僕は「パルンは笑えない」派につきたいと思います…… 山村 僕は「笑える」派で。 グェン 逆に「笑うしかない」という。 山村 まさに諷刺としてのクールな笑いですよね。真面目な顔して「笑うしかない」っていう。いわゆるギャグとかユーモアとかいうのとも違う。 土居 口だけ笑うといえば、『トライアングル』の結婚式の写真も、最初から自分の笑いじゃなくて、広告の笑いをなぞっているだけっていう……あれも怖いなあ、って。話と関係ないですけど。 山村 (笑)関係あることを言ってくださいよ。 時の反応 大山 パルンさんが世界的に注目されるようになったのは何がきっかけだったんですか。 山村 受賞歴からみると、『草上の朝食』でかなり賞を取って、世界的に認知された。短篇映画祭でアニメーションの作品なのにグランプリを取ったりしたことでかなり注目されたかな。実写を交えた中で。『トライアングル』だけ賞を取ってないんだよね。あれだけ面白いのに。 土居 山村さんはリアルタイムでパルンの新作を観てきたわけですね。 山村 そう。『おとぎ話』以前は後からだけど、『草上の朝食』はほぼリアルタイム。 土居 当時の反応はどうだったんですか。 山村 広島でもやったけど、そんなでもなかったかな。俺一人が興奮してたかな(一同笑)。広島で最初パルンさんと会ったんだけど、『おとぎ話』を前に観ていてすごいと思っていて、本人だとは全然知らずにその話をしてたら、スラスラっとあのタヌキの絵を描いてくれて、「これだ!」って(一同笑)。「すごい好きなんですよ」って。それが最初。びっくりした。その後『1895』とかもすごいなあって観てたけど……『ホテルE』って全然賞取ってないんだよ。シュトゥットガルトで一つ取ってるだけ。広島でも何も。 大山 出品してない、とかではなくて? 山村 『1895』もソウルではじめて観て、そのときはパノラマでしたね。深夜にぽつんと上映があって、お客さんもほとんどいなくて。「こんなすごいのになんでみんな観ないの?」って思ってたよ、ずっと。 土居 パノラマってやっぱりチェックしないとダメですよね。 山村 パノラマはいいよ。最近はしんどいからチェックしてないけど(笑)。若いうちはちゃんと観た方がいいよ。良い作品が埋もれているから。 土居 前回の広島でも、パノラマの方に良い作品が多かったです。 山村 他のところで賞とったりした良い作品で、コンペには落ちたやつを入れてあるからね。 土居 「ベスト・オブ・ザ・ワールド」ってなってますもんね。 山村 パノラマじゃなくてね。パノラマはやめたんだよ。作家に失礼だってことで。次点みたいな感じがして。 土居 パルンは当時も異色だったんですね。 山村 異色だった。東欧圏はグラフィックのセンスがすごいけど、なかでも「こんな人がいるんだ」っていう。もっと泥臭いものが多かったから。 グェン パルンはドライですね。 山村 うん。現代的というか。 土居 山村さんとか、コヴァリョフとか、クリス(・ロビンソン)さんとか、それぞれ別の場所でパルンに貫かれて。 山村 20代にこういうものに出会ってしまうと……いろいろ今自分を分析すると、やっぱり『草上の朝食』の良さを理解するためにアニメーションを学んできたような気にもなりはじめて。 土居 すごいですね。 山村 結局わからなかったから。なんだかすごいんだけど、言えないし。それを理解するためにアニメーションの知識を吸収してきたような気がして。 土居 僕にとっての『話の話』みたいなもんですね。 山村 僕は、『話の話』と両方だね。それが双璧だった。 グェン 『話の話』はもっと多くの人にとってそうですよね。 山村 そうね。パルンはそんなに……この違いはなんだろう…… 土居 ノルシュテインの方がストレートですからね。 山村 ある意味ではわかりやすいんだろうね。描こうとしていることが。 土居 感覚で理解して、それで一応オッケーみたいな感じになりますし。 グェン 作品からストレートに得られるものが多いですよね。 山村 パルンはきっと得られないよね。俺みたいにマニアックにパルンを何度も観て、理解しようとしないかぎり、とっつきにくい作品だよね。一度観て、なんだかすごいけど、くらいで終わりにされてしまいがち。 土居 適切な喩えかどうかはわからないですけど、ゴダールにあたるような感じなんでしょうか。実際に比較されることもありますね。 山村 あ、ほんとに。 土居 『1895』について論文があって、それを読んでいると、結構たくさん比較されてたり。 山村 ゴダールか…… グェン 実写映画でもいるんですよね、そういう同じように難解で、頭を抱えたくなるような。「あれはなんなんだ」と。でも「なにかあるぞ」と思わせる。 山村 ソ連アニメーションの上映を吉祥寺のバウスシアターでやっていて、日本海さんが輸入したエストニアとロシアのアニメーションをごちゃまぜにしてやっていて、『草上の朝食』と『話の話』を観て、どっちもすごいと思って、毎年夏のたびに、その二つを観たいがために行っていて。そうなるとレイン・ラーマットとか他のソ連のも観なきゃいけなくて……でも『草上の朝食』は観るたびに発見があって、ノルシュテインの方はどんどん染み込んでくるような深みが出てくる……パルンは観るたびに面白くなっていって飽きない。両方とも違う方向で、観れば観るほど良くなる。他のは観たくないんだよ、もう(笑)。でもその二人は両極端で、その時代に自分が一番くりかえし観たもの。 4 > |
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